粟津祐逸・ Poem

潟の鴨
かもは寒波くる潟へとんでいこうと思って
いた。それは午睡のようにやさしいことだ。
ひとしきり、水にくぐった。かもは、ある夜、
こっそり枯蘆のほとりにやってきた。そこに
は胃袋をみたす小さいさかなもなく、ただは
げしい吹雪の音が貝独楽の鳴りをたてていた。
潟は銀ねずによどんでいた。いや、それは、
はげしく咆哮していたのだ。しかもそれは、
絶えず波しぶきをあげていた。それでも、か
もは、しける波しぶきをよそに地上に落下す
る隕石そのまま翔けていったのだ。
かもは、へんに小さい潟のさかなや、潟のは
げしい時化をも忘れ、いつしか斜に張りつい
た潟の凍りを憂ていた。潟のなかへ、身を
すててしまおうと思ったかもも、妙にそらぞ
らしい空虚と恐怖に脅えていた。
かもは、一瞬、とまどうてしまった。もう、
かもの羽根は霜降りのように、きれいにつや
がでている。ずっと遠い潟の沖合には、ぽっ
かりあかりが見えている。でも、かもは、な
おも厚い氷のうえを翔けつづけていくのだ。
ーーもうひろい潟や空はまっしろに塗りつぶ
されていて、石庭のようにしづまりかえっていた。
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